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  • Jin Kimura

年輪を履く(後編)


そこには、開店間もない高島屋の催事フロアで 「どうぞ、一度履いてみてくださいね」 「白木の下駄はぬくもりが違うので」と 店の前を通る、お客さん一人一人に 真剣に伝えている黒澤さんがいました。 


その相手に寄り添うような掛け声につられ、「先日こちらの下駄をプレゼントでもらって、作って下さった方に御礼をしたくて...」と

話すと、黒澤さんは「わざわざ、

ありがとうございます」と言って、

お客さんとの接客中にも関わらず、

きさくに話をして下さいました。

黒澤さんは、現在師匠である父、孝司さんの

あとを継ぐ五代目として、原木の伐採から

手仕事による仕上げ、その後の販売までを

すべて一人で行えるように修行中との事。 桐下駄製作は基本分業制の為、もしもこれらの

工程を一人で行えるようになれば、全国でも

有数の桐下駄職人になれるのだそうです。

完成している下駄を見ている私からすると、 もう既に立派な職人さんだと思ってしまうのですが、、 黒澤さんは「今の職人は作るだけではなくて、

それを売れないと一人前には認めてもらえない!

だから、そこも考えて仕事をしなくてはいけない」と一言。

近年の伝統文化離れによって、職人として、

製作以外にも、販売力や提案力も求められる

様になってきているのが実感できました。 


(こちらは黒澤さんが考案された新作、

表面に着物生地が貼り付けられている)

しかし、そんな厳しい状況の中でも職人修行に

励んでいる黒澤さんに、「自分の下駄作りに

おいてのこだわり」について聞いてみると、

とても頼もしい言葉が返ってきました。 

「まずは、ぴったりと足に合うものを履いて

欲しいので、お客さんに直接履いてもらって

その人に合う様に鼻緒をすげる事は基本中の

基本、それ以外にもできれば、履く場面や

着る物との合わせ方なんかも提案したいんだ。

だから数を売る事よりも前に、いい物を売る事

を大前提に考えているよ」と、とことん履く人

の立場になって下駄を作りたいと言う心意気と、

純粋に良い下駄を履いて欲しいという配慮が

とても強く伝わってきました。

本来、作り手が使う人の立場になって作る

という事は、当たり前の事なのかも知れない

ですが、黒澤さんの場合、その「当たり前」を

とても誠実に丁寧にされている印象があって、

実際に、私の下駄を作ってくださった時も、

その場に私はいませんでしたが、身長や体重、

体格などもすべて聞いて鼻緒を調整してくださり、

また、購入したばかりの着物(小千谷縮)に

合うようにと、縮の鼻緒をわざわざすげて

くれたのでした。 


こういう姿勢が、お客さんに呼び掛ける声

ひとつにしても現れていて、お客さんからの

信頼を確実にいただいている秘訣なのだなと

思いました。 下駄を作る工程は、他の製品同様に殆どが、

直接お客さんの目に触れる仕事ではありません。

しかし、その下駄には確かに製作に

関わった方々の「仕事」がにじみ出ています。 だからこそ、鼻緒をすげる最後の工程まで、

気を抜くことなく真面目にコツコツと取り組む

ことが大切だと、黒澤さんは教えてくれた

ような気がしました。 今回、直接お話をさせて頂いたお陰で、 頂いた下駄に更に愛着が湧きましたし、 何より、しっかりと私に合うものを選んで くれている、その心意気を知れた事が一番

嬉しい事でした。

今後もメンテナンスの事など色々とお聞き

しながら末永く大切に使わせていただきたいと

思います。 皆様も履物をお考えであれば是非一度 お問い合わせをしてみてください。 おわり 


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